come about ことのなりゆき
これは僕にとっての「初めてのシングル」ということになる。そもそも、自分の活動の中でシングルなんていうものを発表するつもりはこれまで一度もなかった。それには自分の作品発表に対する考えのようなものから予算的な都合まで、様々な理由があるのだが、 まぁそれはいい。
それがどうしたことか、気がついてみると僕はシングル盤というものを制作することになっていた。そこにも様々な理由やきっかけがある。というよりは、色んな要因が縺れあった結果がこうなったと言うべきか。
今思えば、数年前に真柴道ゐと出会ったのが今回の制作の出発点だったかもしれない。それと同じくらいの時期に計画していたミニアルバムの制作の頓挫や、昨年あたりから「自分の作ったものをどのように提示したいのか?」ということを改めて考えることになった幾つかの出来事、10数年親交のあったライブバー店主、本間健二が北海道を離れる事。それに例えば「最近”マキシシングル”って誰も言わなくなったな」という、どうでもいい思いつきの数々から編み上がったものが、結果としてこのような形になった。
制作の発端は「真柴くんに協力してもらって、彼のホームスタジオで何か1曲レコーディングしてみようかな?」という単純なもので、それをどのような形で発表するのか(あるいはしないのか)すら明確ではなかった。そこから、録音する曲を何にするかを考えて”風の道”に決めた(この時、「シングルでこの曲を出すのもいいかもな」と、なんとなく思った記憶はある)。
要するに見切り発車をしたわけだが、経験的にいくら事前に計画して準備を整えていようと「やることになっていないこと」は途中で物事が進まなくなるし、「やることになっていること」はどうなっていくのかわからなくても、だんだんと道筋が見えてきて自ずとそちらの方向に進んでいくものである。少なくとも僕はそのように考えて、途中で中止の判断をしたり、物事の流れの中でいろいろな発想や出来事を捕まえながら「あぁ、こうなる事になってたんだね」とか思っている。
今回は、具体的な作業が始まってから、以前音源としても発表済みである「暮らしの手錠」と「ワルツ」の2曲を再度取り上げる流れがやってきて、かつて色んな方がリリースしていた”マキシシングル”のような形態での発表というのが見えた。
なんの事はない。先ほども書いたように、その時期にたまたま別件の調べ物であるアーティストのディスコグラフィーを眺めていて「最近はだれも”マキシシングル”って言わなくなったな」と思ったら、今時それを出したら面白い(と言うよりも、単純に自分が楽しいなと)思っただけのことだ。
もう20数年前になるが、僕はバックトラックとなる演奏をほぼ打ち込みで作り、多重録音で制作したアルバムを2作ほど発表してる。そして3作目の制作途中でデータが全てクラッシュして以来、打ち込みによる制作は一切やってこなかった。
以後はバンドスタイルでの一発録りや弾き語りのスタイルで制作してきたのだが、今回久々に多重録音、そしてプログラミングした演奏を取り入れてみた。
現場で音色を探して、何度もフレーズを試しながら、20数年ぶりに自分で鍵盤を演奏するというのも楽しかったな。
真柴道ゐのホームスタジオには、僕が打ち込みに四苦八苦していた頃とは比較にならない、充実した設備が整っていた。演奏も編集も含め、デジタル技術で出来ることや、それを実現させるスピードが20年前とは格段に違う。そうした技術の操作を真柴くんに任せながら、その中であくまでも自分のアナログな感覚や発想を中心に展開させていく作業はとても面白かった。
デジタルレコーディングが進化している間、弾き語りや生演奏一発録音をやってきた僕にも、それなりに進化させた自分の「アナログ」というものがあるのだ(笑)。
最初のひらめきだけで見切り発車して流れに任せてみたら、結果的に今まで作るつもりもなかったシングル盤というものが出来上がった。
そして”風の道”という、凡そシングルのイメージとは異なる地味な楽曲をメインとしたという事も含め、僕にとってはある種の新しい試みでもあるし、同時に今まで自分がやってきたことの自然な成り行きでもあるように思える。
あとはこれを聴いて気に入ってくれる人を見つけるだけである。
そこに関しては、できるだけ多い方が嬉しい。
辻 正仁