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​  songs   収録楽曲

           

 

   

 

     風の道

           

              

 

 

真柴くんのスタジオでとりあえず何か1曲録ってみようと言うことになった時に、ではどの曲をレコーディングすれば良いのだろう? というところから始まった。

諸々の事情から、そんなに細かなアレンジを詰めたりせずに、あまり時間をかけずにできそうなものということから、基本的には自分の弾き語りのスタイルをベースとしたものに、若干のリズムと装飾音が入るものがいいなと考えた。

それとは関係のない話なのだが、僕はたまに時間がある時に手持ちの写真画像などを使って、架空のライブ告知のフライヤーを試しに作ってみることがある。あまりそうした作業が得意ではないので、自分が企画するライブの告知向けの練習とでも言おうか。実は、遊びでデザインを考えているところから、本当にライブを企画する事もある。

ある日、そうやって架空の告知素材を作りながら「なんかコレ、シングル盤のジャケットみたいだな」と思い、そのデザインのイメージに合う曲として自分の曲の中から『風の道』のタイトルを入れ込んでみた。結局、そのデザインは今回のジャケットとしては使わなかったけれど、思えばここで「この曲をシングルにする」というアイディアが僕の中にインプットされたのだろう。

楽曲としては、今回のレコーディングのイメージとも合致していた。

基本的には、僕がライブでやっている弾き語りと同じである。ギターで同じコード進行のストロークを繰り返し歌う。そこにイントロで弾いているアルペジオをずっとループさせるというのが基本である。これを、多くの民族音楽や伝承音楽にあるように、打楽器が繰り返す特定のリズムパターンに乗せて奏でると言うのが僕の望んだことである。

このパーカッションは真柴道ゐが途方もない量のサンプリング音源から見つけてきたものを、さらに僕のイメージに近づけるべく、音色やパターンを修正して作った。

そのほか、シンセの音色に関しても同じように作っている。

 

本間健二のベースは、全てのトラックが出来上がった最後に入れてもらった。まるで、組み上げた抽象的な櫓をしっかりと固定するために、揺るぎのない杭を打ち込むかのように。

この『風の道』という曲は、長年に渡って何度も書き直している曲である。披露した事もあれば、その後また改めて書き直し、そのまま結局ボツにしたりした事も経て、2023年の初頭に今の形で書き上げた。

ごく一般的に言って、シングル曲というのは、結果的にどうであれ「売れそうな曲」を選ぶことがほとんどだろう。「より多くの人が気に入ってくれそうな曲」「広く自分のことをアピールし、受け入れられやすい形で紹介できる曲」という言い方もできるかもしれない。

​『風の道』というのは、そうしたタイプの曲ではないと自分では思っている。

​書き上げた当初から「コレはなかなか気に入られたり、評価されるものではないだろうな」という自覚があった。なんというか、聴いている人が共感できるような「とっかかり」がどこにもなく、淡々としており、喜怒哀楽のどういった感情の曲なのかを掴むことができないだろう。聴いている人たちは、どういう心持ちになれば良いのかわからないだろうなという気もするので、ライブでも滅多に歌わない。

​でも、この曲は僕にとってはこれまで長いこと曲を作り続けてきた中で、ようやくたどり着いた一つの到達点でもある。あまり詳しく書くと訳がわからないだろうし、興醒めする部分もあるだろうから割愛するが、自分に”作家性”というものがあるならば、あるいは”表現者”と言えるのなら、この淡々とした曲は、その核となるものだけでできていると言えるし、僕が長年曲作りをしている中で目指している幾つかの「こんな曲を書けるようになりたい」というイメージのひとつが、手応えを感じて実現できた姿でもあると思う。

要するに、そのくらい自分では気に入っていると言うことだ(笑)

さて、「シングル曲」という事を考えた時に、この曲がふさわしいのかどうかということになると、正直、他の誰かがこういうものをシングルにしようと思っていたら「もうちょっと受け入れられやすいのがいいんじゃない?」と言うと思う。

でも、僕自身は、特にシングルだからと言って、毎回歌い続けて、売らんがために宣伝しまくる必要がある立場にいない。幸か不幸か(笑)

せっかくそういう境遇にいるのだから、自分が何をどう表現したいのかという部分のスジは通した上で、それをできるだけ広く受け入れてもらえればと思っている。

だから、自分で初めてシングルとして作品を発表するなら、「私はこういう曲をシングルにするタイプの者です」という事も表現の一環として試してみたいと思ったのだ。

遊びでジャケットデザインを作ってたところから、こういう心境になるのだから、物作りは面白い。

ちなみに『風の道』というのは、日本を含め世界各地のいろんな民族の伝承や神話のなかで、様々な形で語られている。意味合いもそれぞれの内容によって異なっているとも言えるし、そのなかに共通点を見出す事もできるだろう。

 

この曲は僕が見聞きした幾つかの『風の道』から感じ取ったイメージと自分の個人的な体験や心象を重ねて、自分なりの『風の道』を描いてみた曲である。

           

 

   

 

暮らしの手錠 (MassiveTrack)

 

 

本間健二が移住する前にベースで参加してもらおうということになり「3曲入りのシングルにする」という方向性にした訳だが、そんな中でレコーディングの合間に真柴くんと音楽の話をしていたら、彼はいわゆる「3コード」のブルースやロックンロールをまったく通ってきていないということだった。

我々の年代だと楽器を持って集まって、さぁ何しようかとなった時には大抵「3コード」の基本的なブルースの進行でセッションしたりしたものだが、それを「基本的」だという感覚も、もう大した意味を持っていないのかもしれない。

​この『暮らしの手錠』は2012年に発表した《海月屋sessions Vol.2》に収録した曲で、3コード12小節の、典型的なブルースである。当時のレコーディングメンバーは皆、これを経験してきているので、それこそ典型的な、このスタイルの所作をきちんと踏まえた演奏で収録されている。

『風の道』とカップリングする収録曲をどうしようかと考えていた僕はここで「ブルースをまったく経験していない真柴くんに典型的なブルースを任せてみたらどうなるのだろう?」と思いついた。

この曲であれば本間さんも知っているし、なにしろ「我々の年代」なので(笑)、3コード12小節と言えばあとは簡単だ。まだ収録したことのない曲をまっさらな状態で、アレンジのそもそもから作り始めると言うのは、今回の制作の意味合いからするとあまりふさわしくないなと思っていたので、それよりはむしろこの曲の「別バージョン」を作る方が、レコード時代でいえば「B面収録曲」としての面白みに近づけるなと踏んだ。

なので、この曲のアレンジは真柴道ゐに全て任せて、僕は出来上がったトラックで歌ったり、コーラスを入れたり、叫んだりした。

彼に依頼するにあたって指定したのは、テンポと曲の構成はオリジナルと一緒にして、中身は好きなようにやってくれということだけだったのだが、オリジナルの音源を聴かせたり、大元はブルースですよって事を伝えすぎたせいか、最初彼は一生懸命頑張って、かなりブルースに寄せたものを仕上げてきた。

それはそれで悪くない出来だったし、彼は自分でギターを弾いた以外、ドラムとピアノは打ち込みで作ったんだが、生っぽい音に仕上がっていて感心もした。そこで、もうひとつだけ注文として「ここにもう一個、ちょっと暴れた感じのギター入れてよ」とお願い。

それを彼への宿題として、ボーカルと本間さんのベースを録る。

本間さんのベースプレイを基に、他の楽器の細かいところも修正しようということになったので、この時にも真柴くんに「ブルースに寄せる必要ないからね。ブルースを知らない人がどういうアレンジしてくるのかを楽しみたいから」といった話をする。

僕はブルースも好きだし、それでセッションするのも楽しいのだが、中には時たま「極めよう」という考えの方がいらっしゃる。それはそれで構わないし、素晴らしいとも思う。しかし、そうした人が誰かの演奏を聴きながら「あんなのはブルースじゃない」とか「もっとこうあるべきだ」と言ってたりするのが苦手である。

​もちろん、所作に乗っ取った素晴らしい演奏というのも醍醐味ではあるのだが、この曲に関してはそれは以前、一度形にして発表している。

だったら今回は、せっかくブルースを知らない人と一緒に音楽を作ることになったのだから、ソイツにブルースの何たるかを講釈するよりも、ブルースを知らない人の感性を取り入れた方が面白いじゃないか。

制作の終盤に各曲のミックスをやりましょうという段階で、真柴くんが「あれからちょっといじって、随分変えちゃいました」と言ってきた。

​そのトラックは、典型的なスタイルで育ってきたものからすると、クレイジーな仕上がりで面白い。これは僕には思いつかない。

ドラムもギターも大暴れである。要するに、オーソドックスな事をやっている本間さんのベースを骨格にして、他のものを根こそぎ変えたと言ってもいい。どんだけハチャメチャやっても、真ん中でベースがどっしり構えてるから、メチャクチャにはならないという「B面ならでは」の変わり種ができたと思う。

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 ワルツ (b4n Kenzzzi)

           

 

この曲は2007年発表の《海月屋sessions Vol.1》に収録したもののリメイクということになる。

発表から4年後、ライブバーの店長となった本間健二は、自分の店に出演してもらう演者を探そうといろんなミュージシャンを調べている時に、ネットに公開されていたこの曲を歌っている僕の動画を見て「ウチの店でライブに出てもらえませんか?」という趣旨の、非常に丁寧で気持ちのこもったメールを送ってきた。それが僕と本間さんの付き合いの始まりである。

その後、彼が企画し、立ち上げから僕も関わらせてもらた定期的なチャリティライブの関係で、二人で福島県相馬市に出向いた時も、一緒にこの曲を演奏した。

今回の制作に参加してもらう事になって、やはりこの曲を一緒に演奏したテイクを残したいなと思った。

そういう事だからと言って、何か特別な演奏にするとか感情過多な演出を施すのも、らしくないなという気がしたので、いつも通り僕がギターを鳴らして歌うのに応じて本間さんがベースで何も余計な事をしない演奏をするという、おじさん二人の演奏をそのまま収めた。

​録音も、二人のテイクは重ねる事なく、真柴くんの愛犬ポトフが歩き回る中で二人で顔を突き合わせて、クリックも使わずお互いの呼吸を合わせて録音した。よく耳をすませば、ポトフの足音が聞こえるかもしれない。

このテイクに後日、真柴くんがサンプリング音源を探して取り込んでくれた、アイリッシュトラッドでよく使われる幾つかの楽器(イーリアンパイプ、ティンホイッスル、フィドル、アコーディオン、フルート)の音色を、キーボードを演奏して重ね録りした。約20年ぶりくらいに鍵盤を弾いたので、その辺はデジタル編集の恩恵を被りながら、本間さんと演奏した時になんとなく自分の中で聞こえていた音を探してみた。​

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