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執筆者の写真辻正仁

#008 All That You Can’t Leave Behind / U2(2000)

更新日:2022年3月4日


U2に関心を持ち出したのがいつ頃のことだったか定かじゃないんだよね。

気がつけば割と夢中になってたと言うか。

”Pride”って曲は好きだったし、あと初期の頃のアルバムに入ってた”40”とか。でも当時あんまりのめり込みはしてなかったはずなんだ。


徐々に気になって来たのは、”LiveAid”でどういうわけかボノが学ラン着て出てきて、客席に飛び込んでいった(そんなに格好良くではないんだ、ステージ的に言えばおかげで変に間延びしたし)シーンを見て、なんかよくわらんけどその必死な感じに胸を打たれたのね。

なんちゅうんだろう? アドレナリンが湧き出るような興奮じゃなくて、なんかハートフルな一生懸命さみたいな変な説得力と心地よさがあって。


で、そのあと”SunCity”の色んなアーティストが取っ替え引っ替え歌ってるPVで一瞬出てくるボノの面構えにシビレたってのが最初の頃の印象なんだと思う。


だからあんまり、大ヒットした”The Joshua Tree”は通過してないってか、今聴いたらいいアルバムだなって思うけど、個人的な思い入れがなくて、むしろ映画用に出た”Rattle and Hum”が好きだって言うね。夢中になりだしたのは多分アレが出てから。

そっから彼らは自分の先輩格にあたる人たちとの共演とか多くなって、気がつけばちゃっかりそのレジェンドたる先輩たちと同格に錯覚しちゃうような位置に収まっちゃった気がする。

デビューして数年しか経ってないタモリが『お笑いスター誕生』の審査員になって、以後大御所っぽい印象になったみたいな(笑)


で、その後で出した、ガラッとイメージを変えた”Achtung Baby”もかなり好きだった。アレを製作した理屈というか言い分みたいなものも結構興奮したし。もうだから「レジェンドのクセに新境地」みたいな印象だよね。


で、その後はしばらくその路線を突き詰めていく感じなんだけど、そこでまたちょっとこちらの熱意が冷めかけると言うか、よく映画とかにあるじゃん、一作目が評判良くて続編を重ねていくうちに話が複雑にマニアックになりすぎて、仕掛けも派手になっていってちょっとついていけないみたいな。あんな心境。だから、聴いていてマニアックな喜びはあったけど、「ずいぶん贅肉ついちゃったな」みたいなね。


この”All That You Can’t Leave Behind”はその後で出たんだな。もう一回体をシェイプアップして戻ってきましたって感じがした。コアなファンの人たちがどんな評価してるのかは知らないけど、このスッキリ感が気持ちよくて、僕としては「名盤」と思えるのね。


これ、U2の中で一番聴き込んだアルバムだ。発売から2年くらいはやたらと聴いていた。

個人的にはその間に、自分の生活をコロッと転換させていかなくちゃならない事があったり、世間的には9.11があって、2000年代が始まりっていうなんか妙にいろんなタイミングが重なって、自分の事だけじゃなくて周囲の空気からも「もう元に戻ることはできなくて、不穏な世の中だけど、なんとかやっていかなくちゃね」とか「今までの価値観は捨てて、作り直さなくちゃ」みたいなことを感じてた時にずっと聴いてたのがコレなんですよ。


なんちゅうんだろ? 発売当初はよく『原点回帰』とか評されてたんだけど、そんな感じもしないっていうか、むしろこれから21世紀になりますってタイミングで、世間にも自分にもそんな空気が流れてる中で聴いてると「ちょっと身軽になって次の場所に行きますよ」っていう身辺整理した感じと「旅立ちに向けて、これは新調したんだ」ってものがあって、だから『置いていけないすべてのもの』みたいなタイトルもすごく合点がいったのね。

初期の音に安直に戻ってもいないし、デジタルな音であえて演出過多な表現を突き詰めてた頃に身につけたものの中でも必要なものはちゃんとバッグに入れてますみたいな。


U2がデビューして20年経った頃に発表されたんだけど、デビューからリアルタイムで聴いてると、最初の10年と次の10年で随分表面的なアプローチがまったく違うのがさ、コレでその落とし前つけたんだって感じがあって、それこそ「置いてはいけないもの」が確かにあったよね、だからこのアルバム出せたよねっていう。「オレにも色々あったんだ感」っていうの?


その辺の感じが、そろそろ「青年」とは言えなくなってきてこれから「中年」になっていく自分の心象にハマったんだろうね。新しいステージに移動するんだけど、手放しで喜ばしいんじゃなくて、なんかほろ苦さも一緒に抱えておりますみたいなところとか、なんかある程度出来上がっちゃってるものをどうにかやりくりしながらオッサンになっていくんだっていう心境というか。

まぁ正直そういう聴き方しながら自分も旅立ったよね(笑)。


だから、やっぱり僕にとっては『原点回帰』じゃなくて『大人になった人のアルバム』って感じがする。


コレね、そんだけ聴き込んだのにある時期からすっと聴かなくなったんだよね。そういう入れ込み方してって意味では。


さすがに日付まではわからないけど、何があった頃かってのはちゃんと自覚してるんですよ。

あんま詳しくは書きたくないけど「ある出来事の終わりが始まった頃から、次の出来事の始まりが終わった時まで」の期間に聴いてたんだってことに今更気がついた。


あんまり年齢でどうこういうのは趣味じゃないっというか、普段そんな考え方してないけど、世間的な表現をするなら、それはやっぱり僕の「青年期の終わり」ということになるんだろうな。


『置いていけなかったすべてのもの』はまだ持ってると思うよ。

失くしたくないものや失くしてはいけないものの他にも、どうしても捨てられないものや、仕方なく持って行かざるを得ないものも含めて。


荷物の整理は苦手なんだ(笑)。




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