ブルース・スプリングスティーンって、この10年くらいあまり熱心には聴かなくなっちゃったんだけど、20代の頃は随分聴いてたな。なんかアルバム総体としての印象っていうよりは、この人の場合、楽曲そのもののインパクトっていうのが印象に残る人。名前を聞いて思い浮かべるのがアルバムではなくて、いくつかのお気に入りの曲なんですよ。僕としては。
中でもやっぱりこの曲が一番好きかな?
どんな気分の時にも聴けるし。
そう言えば、この曲が出始めたあたりから日本ではやたらと『ブルース・スプリングスチック(個人的に命名)』な曲やアーティストがゾロゾロと登場してきたな。
よくは知らないけれど、多分この曲って彼のステージに於いては絶対に外せない曲なんだと思うのね。コレやらなかったらお客さんは納得しないと思うんだ。
ライブの動画とか観てると、おそらくもう何十年も本人はまともに歌ってないと思う(笑)。イントロ始まったら大観衆が「うぉ~」って盛り上がって、そのまま大合唱してて、スプリングスティーン本人は歌の合間に「イエ~ッ!」とか「カモン!」って言ってるだけという。
もうライブ行ってる人もその場でコレを聴くのではなくて、歌うのが楽しみなんだろうね。
またコレが大声で歌いたくなるんだわ。なんかそういう人間の生理的な欲求を刺激する作用があるのかもね。
最初に聴いたのは、発表当時にラジオから。
うん、イントロのキャッチーさとかちょっと切ない感じがにじみ出るけど、基本的に元気がいい感じがするしね。
で、サビのリフレインはポンと飛び込んでくる。
”Everybody's got a hungry heart”
ここね。
ほかの歌詞なんて全然何歌ってるんだか知らなかったけど、高校生の頃の自分にはこのフレーズとこのサウンドがあれば、もうジャストフィットだったんですよ。ヒアリングだけですぐ脳内翻訳できるこのフレーズ。当時は多分、耳に入った瞬間に「誰もが飢えた心を持っている」って訳してたと思うんだけど、いつの間にかもう少し賢くなって「みんな満たされない心でいるよ」みたいな方が通常使うフィーリングとしてはいいなみたいな。
なんかそう言われたら、自分の中に思い当たるフシがあるよなと、10代の頃に感じたんだろうね。理屈じゃなくて感性で反応してたな。
それで、何年かして訳詞を読んだわけだけど「え? こんな歌だったの?」って。
それは一人の男がある日ふと妻子を残したままふらっと蒸発しましたと。それがワンコーラス目。
そして2コーラス目で、その蒸発した先で行きずりの恋をしたけど、長続きはせず、また元いた場所に帰ってきたというお話。
それでおしまい。
これを世界中の大観衆が本人に代わって大声で歌ってるんだ。もう何十年も。本人に「カモン!」とか言われながら。
だいたいそういう大合唱になる歌って、要約すれば「がんばろうぜ」みたいなのが多いじゃん。
コレ、特にそういう希望的な言葉とかは入ってないんだよね。
なんか多分あんまり人生がスムーズに行ってない人の蒸発話とサビの「みんな満たされない心でいるよ」って報告だけなんだ。
でも不思議とこれを大声で歌うと希望が湧いてくるってか、スッキリするってのがね。
最初はホラ、こちらは英語をわかってないから音の気持ち良さだけで反応しちゃってて、それで、若造の常として心は満たされてないから、そんな気分で聴けてたのかなと思ったけど、もう世界中の老若男女が”Everybody's got a hungry heart”って、ある意味本気出して歌ってるんだから、そういう事ではなかったんだよね。
コレきっと英語を理解してる人たちもみなさん、初めて聴いた時にこのサビのフレーズに共鳴しちゃったんだろうね。
なんでこんな切ない曲を歌ってスッキリとした爽快感があって元気になるんだか。
「女房子供を残して出てきたんだ~」って何万人って人が意気揚々と合唱してるのってなんかすごくない? 「カモン!」とか煽られながら。
それでまぁ、たまに本人がちゃんと歌ってるの聴きたくなって、一人で静かに聴いたりするんだけど、やっぱり何に対してかわからんけどやる気になるんだよな。
ふらっと蒸発したくなるのではないけれど、10代じゃなくなって随分経つけどいまだに思い当たるフシのある曲だ。
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